manabilife

教育・節約・投資

集団授業の価値③_「前向きアプローチ」と「学習者視点の指導」

f:id:manabilife:20220102143839p:plain

概念とビッグアイデアを検討した授業をどのように実践するか。授業内容を検討する上で、「資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究報告書1」は「前向きアプローチ」と「学習者視点の指導」という視点を提示しています。生徒が今何を知っていて何を知らないか。学習者が「今日の学習を通じて何ができるようになったか」を振り返る。そんな学習内外の情景をイメージしながら授業を準備する事が重要になりそうです。

【持続的に学ぶ「前向きアプローチ」】

ゴールが定まっていない問題に対し、熟達者は仕事に慣れて自動化してくると、余ったリソースを振り分け、より高度なレベルの問題に挑戦する事が示唆された。また、作文や医学、音楽、プログラミングなどの学習の分野では、熟達者と初心者の解決過程を詳しく調べた結果、熟達者ほど初心者より多くの労力や時間をかけることがわかった。

 

教師の定めたゴールを超えて、子供自らが長期間にわたって獲得したい知識や能力を自分で見定め、持続的に学び続けていく過程を「意図的学習」と定める。意図的学習ができるようになると、「今日学んだことを使って何ができるようになるか」「どうしたいか」「何をすべきか」を主体的に考えるようになる。また、講義を聞いても「この話をどう使えるか」「なんの役に立つか」という態度で聞くことができるようになる。このような学び方、及びそれを引き起こす教育を総称して「前向きアプローチ」と呼ぶ。

 

【講義の失敗からの悪循環】

報告書P67の「講義の失敗からの悪循環」では、指導場面でよく陥りがちな状況と対応が記述されています。以下要約です。

知識伝達主義者は、科学者が現在のような知識を得るまでには何百年も掛かったのだから、それを子どもたちに短時間で伝えるためには、すべての研究と成果をわかりやすく説明するしかないと考える。さらに、科学者の研究手法も教える必要があるので、その共通なやり方を抜き出しメインステップを教えようとする。ところが、子どもたちがその内容や方法の習得に失敗すると、次のような解釈に至る。

(a)子供たちの動機づけや努力が足りなかった。

⇒動機づけを高めるためにびっくりするような食虫植物や噴火の写真、ユーモラスな逸話などを講義に取り入れたり、なぞなぞや実験などインタラクティブな要素を導入しようとする。

(b)子供たちが教材を理解できるように、言葉を覚えたり、基礎となる事実を押さえたり、推論のスキルを事前に身につけたりすることを事前にしていなかった。

(C)新しい概念を妨げる誤概念や素朴概念があった。

⇒子どもたちの考えをできるだけ持ち込ませず、基礎から用語や事実を教え込み、単純なパズルやゲームの形で科学の論理を教えようとする。

 

その結果、子供の興味関心は一見高まったように見えるが、情報伝達量が増えすぎるために、子供はそれらを一層結びつけようとしなくなる。知識伝達主義者は、子供が自分の経験に従って待つ考えと、新しい情報とを結びつけ解釈して初めて定着する知識となることを見落としている。その結果、新しく習得した知識は剥落し、自分の誤概念、素朴概念のみを適用することになる。まれに講義からよく学ぶ子供がいるが、それは聴いた内容を自分で評価・確認したり既存の見方との整合を図ったりしているため。

 

【授業スタイルよりも学習者中心の視点が重要】

「発見学習+講義」の組み合わせが「講義のみ」よりも好成績を残している実験もあるが、「発見学習+講義」がベストであるというわけではない。最後には先生の講義があるという認識が生まれることで、「答えを待つ」姿勢が生まれてしまう可能性もある。大事なことは、教育方法単体で優越が決まるわけではなく、その使い方を工夫することで「学習者が教育方法で与えれる情報についてあらかじめ何を知っていて、それをどのように受け止めるか」という学習者中心の視点を取ること。

 

【分かって初めて疑問が生まれる】

報告書では、質問ができるためにはそれなりの知識が必要であり、それを確かめるための実験が紹介されています。

(a)何も知らない人が難しい説明書で学習する。

(b)何も知らない人がやさしい説明書で学習する。

(c)少しは知っている人が難しい説明書で学習する。

(d)少しは知っている人がやさしい説明書で学習する。

この中で質問が多かったのは、(b)と(c)。つまり、質問ができるためには、何を質問しなくてはならないかが分かる程度には、既有知識があった方が良いと言える。

 

【ここまでの学び】

意欲→知識→思考の段階モデルの立場に立つと、「まずは意欲」という事で、「興味を引きそうな衝撃的な写真や映像」を利用したり、「衝撃的なエピソード」を紹介する事は教育の現場でよく行われている事だと思います。しかし、報告書が示す通り、一見子どもたちの興味関心が高まったように見えても、実はその刺激的な情報に反応しているだけで、その後の知識の習得や概念理解に繋がっているとは感じられない授業も散見されます。表層的な生徒満足で良しとするのではなく、やはり、「前向きアプローチ」の教育を実践していきたいと考えます。「学習者視点の指導」と授業準備は、指導者自身にとっても日々試行錯誤の連続で、授業がより楽しくなりそうです。

nier.repo.nii.ac.jp