【問題】
帝国財政の行き詰まりをどうする?
【基本概念】
専制君主政(ドミナトゥス)
【基礎知識】
・最後の五賢帝マルクス=アウレリウス=アントニヌス帝治世の末期頃から財政の行き詰まりがあらわに。
・3世紀に各属州の軍団が独自に皇帝をたてて元老院と争い、多数の皇帝が即位しては殺される軍人皇帝の時代に。
・ゲルマン人やササン朝などの異民族の侵入により帝国は分裂の危機に。
・都市の上層民の一部は、都市を去って田園に大所領を形成し、下層民などを小作人(コロヌス)として働かせた(コロナトゥス)
【問い】
①その問題が生まれた背景は?
・内乱と異民族の侵入に対する軍事力増強のため、重税が課され、特に西方の諸都市が衰退。
・すでに征服戦争は終わり、戦利品や領土獲得による富がもたらされることもなかった。
②その概念によってどのようにして問題が解決したか?
・284年に即位したディオクレティアヌス帝は、広大な帝国を1人の皇帝が統治する事は不可能と悟り、帝国を東西に分けて正帝と副帝の二人が統治する四帝分治制を敷いた。
・皇帝を神として礼拝させ、オリエント風の跪拝礼(きはいれい)を強制して専制君主として支配(体制は元首政から専制君主制に)。
・ディオクレティアヌス帝は、宗教によって皇帝権を強化しようとしたため、伝統宗教復活を目指し「キリスト教徒大迫害」を行う。
・ディオクレティアヌスが退位すると四帝分治制はすぐに崩壊。各地に皇帝が乱立したが、324年にコンスタンティヌス帝が再びローマ全土を統一。
※コンスタンティヌス帝の改革
1.皇帝の専制支配をさらに強化
2.機動的な軍隊を増強
3.キリスト教を公認して帝国の統一をはかる
4.コロヌスを土地に縛り付けて税収入を確保
5.伝統宗教の残るローマを去り、新たな首都をビザンティウムに建設(コンスタンティノープル)
6.ソリドゥス金貨を発行し貨幣経済を安定化
③問題解決後にどうなったか?
・皇帝が官吏を使って帝国を専制支配する体制が確立し、官僚制を土台とした階層社会となり、人々は官吏としての出世を望むように。
・軍隊と官僚を支えるための重税は相次ぐ属州の反乱を招いた。
【学びの活用】
大帝国の経済が困窮した時に打たれた手は、分割統治と専制君主制。分割するのも、広域支配で専制君主の影響力を維持するのが困難だったからと考えられる。専制君主が影響力を維持するために宗教を利用するのも、オリエントやエジプトの神権政治と重なる。超越存在の力を借りることによって、神格化を図ろうとするのが専制君主の1つの特徴といえそう。
専制君主による統合は、危機的状況の一時的回避にはつながるが、市民の影響力が増大するにつれて内部の反発(反乱)が起こる構造も歴史上繰り返されている。また、専制君主制は君主に対する絶対服従によって重用される官僚によって専制支配が強固になり、上級官僚を目指す階層化が進む事も共通構造といえそう。
また、専制君主制を維持する条件は、内部反乱が起こせないほどの困窮状態と、絶対的な権力の後ろ盾が必要(かつては神や宗教)。困窮状態の解消によって、市民の影響力が強くなるに連れて、統合が崩れ、反発が強まって崩壊する構造も歴史上繰り返されている。
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